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執筆者の写真有限会社シューコーポレーション

水物語その68 竹田津実さんとの出会い

竹田津さんの自宅は

北海道斜里郡小清水町にあります。

小清水町は北海道の東側、

知床半島と宗谷岬の

中間にある網走市の南の海辺の町です。

真冬には流氷に覆われる海に面し、

ピートとじゃがいもと

酪農が盛んな町です。

東京から飛行機で女満別空港へ行き、

そこから車で向かいます。

空港では竹田津さんと

親しい酪農家のFさんが

大きなランドクルーザーで

出迎えてくれました。

「まっすぐ送っても面白くないもんね」

と、北海道弁で言ってFさんはまわり道。

10月で観光客が少なく

ほとんど車に出会いません。

国道と平衡に走る舗装道路を走りながら

「これは俺らの専用道路だァ。農業用の車は国道は走れね―んだァ。」

と、Fさんは自慢とも批判とも

聞こえる口調で

吠えるように言いました。

真意を分かりかねている

私の気持ちを察して、

「同じ道、2本も作ることないべさ。」

と今度は独り言のように言葉を続けました。

そこでようやく農業振興を口実にした

過剰なインフラ整備を

嘆いているのだとわかりました。


土地を知り尽くしたFさんによるドライブは

まるでアトラクションのようでした。

脇道をいくつも通り、

牧場や原生林の中をどんどん進んでいきました。

ある時は猛スピードで、

ある時はゆっくりと走り、

森の中にいるエゾシカや

キタキツネの姿を見せてくれました。

そんなプロローグがあって

竹田津さんのお宅を訪ねると、

エゾシカやタヌキを奥様と一緒に世話をしている最中でした。

車に跳ねられて怪我をした野生の動物を

治療しているところだとのこと。

自宅の周りには小屋があり、

そこには保護された沢山の動物たちがいました。

家の中にも、野生の鳥や小型の動物たちが

入った檻がたくさん並んでいました。

「治療するのは良いんだけどね、

野生に戻すのが大変なんだよ」

と大きな声で言う竹田津さんですが、

その顔に苦労の色はありませんでした。

しかし、

「かみさんが大変なんだよ。毎日の世話がね」

と曇る声でつぶやいていました。

竹田津さんの本職は獣医さんです。

小清水町の家畜診療所の所長を勤めていて

酪農業の沢山の乳牛を診ています。

1962年に就職されていますから既に25年、

四半世紀を越えています。

獣医の仕事のかたわら、農民と隣り合わせに

生きているキタキツネに興味を感じ、

その生態を写真に撮り始めたのが

自然写真家としてのスタートだったといいます。

私が初めて訪問した時点では、

キタキツネだけでなく野生動物の写真家として

知られており、

写真集や子ども向けの写真絵本などを

何冊も出されていました。

家の中に落ち着いてから、

私は谷口カメラマンが撮影した映像を

見た感想を率直に話しました。

これだけの映像があれば、

ポイントだけの追加取材で番組が作れること。

そして、珍しいだけでなくその生きものが環境と

共にあることが子どもたちに伝わる番組が

作れるということを強く訴えました。

竹田津さんは

「そうなんだよ!写真ではそこが難しいんだ。」

と強く賛成してくれて、

自分たちが「子どもたちのためのオホーツク村」を作って運動していることを

熱っぽく語ってくれました。

番組出演のOKももらい、

問題は1年間の追加取材で何を撮るか、

それを決めるためのストーリーつくりを深夜まで一緒に考えました。

そうして出来た番組企画が

前回紹介した4本でした。

次回は「キタキツネの恋と子育てと旅立ち」のお話をします。

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