タキツネの「修学旅行」は夏の盛りに行われます。
母キツネが先生となり、自然界の生き抜く方法を教えていきます。
「修学旅行」の名の通り、広い北海道の地を
あちら、こちらへと場所を変えながら
一体、何が危険でどのように対処するのかを
母キツネが実際に見せていきます。
ロケ隊としても是非とも記録したいシーンなのですが
子どもを連れた母キツネの警戒心はとても強く
夏草の茂った道路の脇や草原や林の中を
スルスルと抜けていくのでさすがの谷口カメラマンも
近い距離での撮影は難しかったようです。
それでも、望遠レンズで捉えた実像はとても貴重なものでした。
例えば、牧場に座り込んでいる乳牛の限界まで近付き、
牛が立ち上がって向かってくると急いで逃げて見せるとか
道路の脇で車が来るのを待って、
近づいてきたときで「クワン!」と
警戒の声を出して逃げて見せるなど
言葉を使わない教育はこういうものか
と思わされるシーンが撮られていました。
竹田津さんは
「親がやって見せて、子どもに真似させるやり方だね。
母親によってやり方は少しずつ違うようだけどね。」
と長年の観察の成果を語っています。
この修学旅行は人間と違い、1回で全匹を連れていきません。
母キツネが2〜3匹ずつを1泊2日連れ出して順番に行います。
残った子キツネたちは父キツネからモグラなどの捕まえ方を教わります。
モグラの穴を見つけると臭いを確認し、近くにいるのを確かめてから
飛び上がって地面を叩き、モグラが驚いて顔を出したところを捕まえます。
これも、母キツネと同じように父キツネが実際にやってみせるやり方です。
そんな、楽しくも忙しい夏が過ぎて秋になると、
子別れの儀式が始まります。
あんなに優しかった母キツネが突然激しく嚙みつくのです。
子キツネがひっくり返って腹を見せても許しません。
起き上がって甘え声をだしても許さず噛みつきます。
何度も何度も、子キツネが諦めて離れていくまでそれは続きます。
そうして、一匹、一匹追い出すのです。
追い出された子キツネの中には
先に追い出された兄弟に着いていき、すり寄る子もいます。
しかし、その兄弟からも突き放されてしまいます。
キタキツネには「個」で生きる本能が
強く打ち込まれているようです。
まだひとりでエサを取る力のない子キツネは
牧場で飼われている猫のエサを盗んだりするのです。
中には、道路の脇に座り込むキツネもいます。
車で通りかかった観光客がその姿の可愛さに
おにぎりやスナック菓子など人間の食べ物を与えてしまうのですが
エサが貰えることを覚えてしまうと、
修学旅行で母キツネが体を張って教えてくれたことも薄れてしまいます。
その結果、エサを求め道路へ飛び出し、車にはねられてしまうのです。
この取材をしたのは35年も前ですが、
キタキツネの子の事故は毎年、同じように続いているようです。
また、人間が与える食べ物は肉食であるキタキツネにとっては
塩分や糖分が多く、下剤に近い刺激となり
毛が抜け落ちてしまう皮膚病を患う原因ともなっているそうです。
それでも、人間の住む環境で生きる術を学びながら
キタキツネは数を減らさず今も生き続けているのです。
映像ー野生の王国「キタキツネの恋と子育てと旅立ち」から
牛がいることに怯えて出てこない子キツネを連れ出す母キツネ
子別れの儀式 子キツネがお腹を見せても噛み付くのをやめない
牧場の猫を威嚇して、エサを盗む。
ついてくる兄弟を突き放す。兄弟別れ。
離れて行く兄弟を見つめる様子
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