サケが自然産卵をしに戻ってくる唯一の川は
それまで取材してきた川に比べると
とてもとても小さな川です。
幅は10メートルほど。
上流から流れてきた来た石が積み上がって
川の底がすぐ見えてしまうような本当に小さな川。
知床にある唯一のその川は、上流に進むにつれ
川幅が狭くなったり広がったりを繰り返し、
1キロほど登ると深さが出てきます。
ここが戻ってきたサケの産卵場となります。
サケは入り口の浅瀬を、
体を横にしながらバタバタと泳いで進み
川奥のそこへと辿り着くのです。
やがて辿り着いたメスの胴体には婚姻色が現れ、
そばではオス達の争奪戦が始まります。
オスが戦っている間にメスは産卵場所を探します。
気に入った場所を見つけると
尾びれを使って川底の石を跳ね上げ、穴を掘ります。
この穴の深さはなんと30cm以上あり、
広さは直径1メートルもあります。
穴が出来上がった頃、
メスの争奪戦に勝ったオスが
準備のできたメスの側に擦り寄って
ブルブルっと体を震わせて産卵を促します。
メスが口を大きく開けながら尾を下げ、産卵を始めると
オスも同時に大きく口を開けて精子を発射します。
余った精子が白い煙のように水の中を流れていきます。
メスは産んだ卵が天敵に食べられないように
卵の上に小石を跳ね乗せて隠します。
そんな行動を3回繰り返すと産卵は終わります。
1回に産む卵の数は約1000個以上、
3回で2500〜3000個をも産むのです。
産卵が終わった後、オスはどこかへ泳いで行ってしまいますが
メスはその場所に留まり、卵を守ります。
天敵や他のサケからの攻撃に耐え、時には戦います。
そしてそれは力が尽きて泳げなくなるまで続くのです。
力が尽きて流されたメスは、
自然界の他の生き物のエサとなったり、
時間をかけ分解されると生まれてくる稚魚のエサともなるのです。
そうして守られて生まれてくる稚魚たち。
石の間に産みつけられた卵の中に2つの目玉が
できてくるのが約1か月。
さらに1か月経つと稚魚は頭のてっぺんから
酵素を出し、丈夫な卵の殻を破って生まれてきます。
生まれたばかりの稚魚はお腹に卵の黄味を抱いて
その栄養で2〜3ヶ月育ちます。
腹に抱いた卵黄がなくなると光の外に出てくるようになり
自分たちでエサを捕えるようになります。
主なエサとなるのは川虫です。
自分の体より大きい川虫に噛みつき、群がって食べるのです。
そして、中には力が弱く生き抜けない稚魚もいるですが
そういう仲間もエサとなるのです。
もちろん、稚魚たちもエサとして狙われます。
生まれてきた稚魚の4分の3は食べられてしまうそうです。
敵は様々なところにいて、外からはヤマセミ、
水中ではハナカジカ、二ホンザリガニ、オショロコマ。
彼らが食べている稚魚を捕らえる様子を
谷口カメラマンは画面一杯の画像で撮影しています。
こうして生き抜いた稚魚たちは、徐々に海へと泳ぎ流れていくのです。
もちろん、海に出てからもカモメなど敵は多く
自然の中で生まれ、育ち、生き抜き、戻ってくることの
難しさを改めて感じます。
一方、人工ふ化場で誕生する稚魚は
育成水槽で餌を与えて育てられ、
ある程度大きくなってから全匹海に放流されています。
水産資源保護法が出来てから、
毎年放流される稚魚の数は約13億尾。
その中の約5〜6%が戻ってきているそうです。
一見、「自然」であることがサケや生き物にとって一番良いと
思ってしまいます。
しかし、もしこの法律が早々と制定されず、
あの高度成長時代の生活排水と
農薬や化学肥料に汚染された川の中を
サケが登っていたら、彼らは無事に生き続けていられたのでしょうか。
野生の王国「秘境知床 日本でここだけ!サケの自然産卵」から
産卵のため、穴を掘るメスと後ろから励ますようにサポートするオス
メスは尾ヒレを使い、穴のサイズを測っている
受精中の様子 / 自然産卵された卵
卵を守り、力尽きたメス
生まれてくる稚魚と卵黄
稚魚の天敵達
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